石川けんじ
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新たな、税金の無駄遣い「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」構想

 

○「ライフイノベーション」って?

「ライフイノベーション」とは、医療・健康分野の産業化を進め、その集積を行うことで経済成長を図ろうとすることです。川崎では、「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」(県・横浜市・川崎市)の指定を昨年末、国から受け、「国際戦略拠点形成推進会議」が設置され、事業の具体化が始まっています。「推進会議」のメンバーは、(株)三菱総研理事長が座長を務め、委員には、味の素・キャノン・JFEエンジニアリング・東芝・東電・東京ガスなど大企業の社長・役員、大学関係者の名前が並びます。そのメンバーからしても、大企業を中心とした事業であることがわかります。

○企業誘致のための土地購入には大盤振る舞い

事業の内容は、先端産業の集積を川崎市の殿町に作ることです。いすゞ自動車工場だった土地の一部を都市再生機構から23億円で購入、その一部は「中央実験動物研究所」に建設費に補助をつけて貸出し、今回さらに、国立医学品食品衛生研究所を新たに1.7haを3年かけて30億6千万円で購入し、国に対して無償で貸与します。これまでも、企業誘致のための土地の取得は2005年度から2010年度までに約322億円にも及びます。福祉関連の土地の取得が約16億7700万円なのに比べても、その突出ぶりがわかります。

○全国でも成功していない

川崎市が発表した「国際戦略総合特区」の経済効果を県・横浜市・川崎市で5年後には約3000億円、雇用創出23万人と見込んでいます。しかし、これらの数値には根拠はありません。同様の事業は様々自治体で取り組まれています。9年前から同様な事業に取り組んできた神戸市では、これまで1500億円(市費300億円)投資し、2010年度の税収効果を26億円と見込んでいましたが、逆に26億円の持ち出しになっています。以前視察を行った山形県と鶴岡市では、慶応大学先端生命科学研究所に45億円の初期投資を行い、その後毎年7億円ずつ、2012年度までの8年間で56億円の補助を出してきましたが、その成果は市外国外で生かされているものの、地域での産業化にはつながっていません。

○お医者さんも反対の医療の産業化

研究活動を自治体が支援することを否定するものではありませんが、それには、長い年月と膨大な費用が必要であり、国が取り組むべき課題です。しかも、「医療」を経済の「新成長戦略」に位置づけ、利潤追求の対象にすること自体、医療関係者からも疑問の声が上がっています。神戸医師会では、こうした「特区構想」について、「特殊な医療技術に先走った医療の国際市場への売り込みに目を眩されることなく、まず、国内の医療環境を充実させることが先決ではないか」と反対決議を上げています。

○川崎市は、自治体本来の役割を

川崎市では、これまでも輸入物促進事業であるFAZ事業やコンテナーターミナル事業、縦貫高速道路整備など、国主導の巨大開発を進めてきました。そして、今度は「医療分野」の産業化と国際競争力の強化で、巨額の税金を地方自治体の負担で進めようとしています。医療という点では、地域医療の充実や市民の医療費負担の軽減、地域経済という点では、市内中小・零細事業者への支援こそ、地方自治体の役割です。国や財界が吹く笛に踊らされては、なりません。